Research

人工物デジタルツイン

人工物システム構造材料の劣化進行具合を広範に検出するマクロ検査技術、その結果に基づいて特に劣化が進行している箇所を重点的に検出するミクロ検査技術により、構造材料の劣化状態を適切に把握する。人工物デジタルツインとは、これら各々のスケールでの時々刻々の検査・モニタリングデータを入力値として構造材料劣化を計算できる数値モデルを開発し、それらを連成させるマルチスケール解析により仮想空間でシステム構造材料の状態を再現あるいは予測するものである。


図1 人工物デジタルツインの概念図(1)

人工物デジタルツイン開発により、以下の4つの観点から人工物システム強化に資することが可能となる。

(1)ストレステストによるシステム脆弱箇所の検出とリスク低減、過酷状況時のシステム構造変化の瞬時把握による人工物システムの強靭化
(2)損傷進展の継続的評価による検査時期や運用計画の最適化,低コスト化
(3)システム運用の知見に基づく合理的な設計変更の提案、規格策定による次世代システムへの還元
(4)社会的価値・環境変化に対するシステムの適応性,可塑性


図2 人工物デジタルツインの概念図(2)

当グループでは、人工物デジタルツイン構築に資するため、以下の具体的テーマに取り組んでいる。


(a)ミクロレベルでの材質劣化を検出する非破壊検査技術

検査・モニタリングとして、人工物構造材料の亀裂発生と進展を検出する従来の技術に加え、その予兆・前兆である微細組織(転位・介在物)や化学的変化等を検出しうる非破壊検査技術の開発を、実験・計算の双方から行っている。例えば、図3では、不純物や微細欠陥により2nd harmonic(図3グラフの青線データ)の割合が変化していることがわかる。


図3 非線形超音波応答による微細組織検出


(b)結晶性材料の分子シミュレーション

結晶性材料を対象とし、原子レベルの挙動をモデル化する第一原理計算や分子動力学(Molecular Dynamics : MD)法、原子拡散を伴う過程をモデル化する機構論的モンテカルロ法 (kinetic Monte Carlo : kMC) 等を中心に、様々な数値モデルを用いミクロスケールの現象解明を行っている。

近年、機械学習を利用したMD法(機械学習MD法)が用いられるようになってきた。機械学習MD法とは、小さな計算セルで第一原理計算を行い、その結果を人工ニューラルネットワークに学習させMD計算に必要な原子間ポテンシャルを作成する手法で、第一原理計算の高精度を保ちつつ従来のMD法と同程度まで計算コストを削減させた新しい手法である。これまでの計算手法では精緻な取り扱いが困難であったジルコニウム合金を対象として、機械学習MD法により微細構造変化のモデル化を行っている。


図4 機械学習MD法


(c)メゾスケール現象のモデル化

複数の計算手法を組み合わせることにより、原子レベルの挙動に基づいて、従来のMD法では再現が困難であった空間・時間スケールの現象解明を行っている。


図5 空間・時間スケール

(c-1)MD-FEM連成解析

本グループで開発したMD–有限要素 (FEM) 連成解析手法により、MD法と比較して数千倍の高効率かつ同等の精度を有する計算が可能となった。本手法を結晶性材料に適用し、従来のMD法のみでは不可能であった様々な空間スケール現象解明を行っている。


図6 MD-FEM連成解析

(c-2)SEAKMC (Self-Evolving Atomistic Kinetic Monte Carlo)法による拡散現象のモデル化

On-the-fly kMCとは、各時間ステップでの活性化過程探索により発生しうるイベントとその発生確率を算出し(図7右)、State-to-state ダイナミクスに基づき時間を進展させる計算手法である。On-the-fly kMCの一つであるSEAKMC法を用いることで、MD法よりも長い時間スケールの現象を取り扱うことも可能なため、個々の原子挙動に基づいて、巨視的な移動現象を再現することができる。


図7 SEAKMC法の概要